私の故郷には、古くから「家から出てはいけない日」がある。祖父母から聞いた話によれば、その日に外出すると不幸が訪れると言う。
 その日が来ると、通常賑やかな町は無人となり、窓はすべて閉ざされる。今年もその日が来て、町は静寂に包まれていた。
 しかし、私は年若く、その禁忌を無視し、自転車で町を散策しようと決めた。家を出て、閑静な町を走り抜けた。人々の気配が無く、ただ風が鳴り響いているだけだった。
 その時、前方に奇妙な影が見えた。人の形をしているが、全身黒く、顔が見えない。私は自転車を停め、その影に近づいた。
 影はゆっくりと振り返り、私の方を向いた。その顔は見たこともない醜さで、大きな目は赤く光り、耳まで裂けた口からは黒い液体が滴り落ちていた。恐怖で身動きできなくなり、その場に立ち尽くした。
 次の瞬間、その存在は私の目の前から消え、同時に強烈な頭痛が襲ってきた。私はその場で倒れ、意識が遠のいていった。
 目が覚めた時、自宅のベッドにいた。母が涙を流しながら私の手を握っていた。それ以来、私はその日に絶対に外出しない。その日が近づくと、あの時の恐怖を思い出し、あの醜い顔が頭から離れない。

タイトル

家から出てはいけない日

タグ
禁忌・タブー
投稿者
S. A.
投稿日
2023-07-19
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