子供の頃、親友の家に遊びに行った。友人の部屋で、何気なく一つのオルゴールを手に取った。小さな木箱に、風船を運ぶピエロの人形が飾られていた。巻きつけると、甘く鈍い音色が部屋に満ちていった。その音楽、そのピエロの優雅な動きに心を奪われていた。
 数日後、再び友人の家を訪れると、彼の顔色がすこぶる悪い。問い詰めると、オルゴールが頻繁に、勝手に鳴り始めたと告げた。そのピエロはもう風船を運んでいない、蛇のようにねじれた手を突き出していた。音楽も以前の甘さは消え、異様な旋律が耳に響く。部屋の隅からは不快な冷気が漂っていた。
 夜、その家に泊まった。真夜中、目が覚めると、部屋は恐ろしく静まり返っていた。唯一、聞こえてきたのは、オルゴールの音。人形のピエロが不規則に動き、蛇のようにねじれた手が更に曲がりくねっていた。それはもはや音楽とは言えない、深淵から呼び出されるかのような音が部屋に響いていた。
 恐怖で身を固くしていた私の手元に、何か冷たいものが触れた。それはオルゴールの鍵だった。視線を上げると、そこにはピエロがいた。口元からは暗赤色の液体が流れ、目は虚ろで、その手にはもう風船もなく、蛇のような形状をした手からは冷たい光が放たれていた。
 友人はどこにもいなくなっていた。無理矢理その家を出て、家に戻った。翌日、友人の家は全焼していた。友人の行方は未だに分からない。それ以降、オルゴールの音を聞くたび、そのピエロの姿が脳裏に浮かび上がる。瞳に映るものは全てが恐怖に満ちていた。

タイトル

ピエロのオルゴール

タグ
オルゴールピエロ
投稿者
S. A.
投稿日
2023-07-13
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