久しぶりに実家に帰省すると、古びた家には妹しか帰っていなかった。
 夜、食事を終えたあと、トイレに入っている妹が何やら言っている。よく聞こえないので近づくと、「やめて」「もー」などと、少し怒った口調で繰り返している。
「どうしたの」と聞くと、中からは「え」とだけ返ってきた、その途端にあたりが真っ暗になった。停電したようだ。トイレの中から妹の狼狽した声が聞こえてくる。
 私はブレーカーを見てくるとだけ伝えて家の外に出た。ブレーカーはあげてもすぐに落ちてしまう。頭を抱えていると女性の悲鳴が家の中から轟いた。ぎょっとして思わず身構える。すると妹が走って家の中から、靴も履かずに飛び出してきた。どうしたのか聞くまでもなく妹は「家の中に何かいる」と言って家の暗がりを見据えながら私の肩にしがみついた。私もその目線を追って今妹が飛び出して開け放しになったドアの奥に続く暗闇に目を凝らした。息を呑む。
 ごお、という低い地鳴りのような音が聞こえる。
 再び家の中から女性の叫び声と、そのあとに、姉である私を呼ぶ、妹の絶望的な声が聞こえてきた。はっとして肩を掴む手を振りほどき後ろを振り返る。
 妹はその場に立ちすくんだ様子で、ぼうっと私の目を見返していた。口は薄く開いていた。
 私が何か言おうと息を漏らした瞬間、その妹はそのままの様子でとても大きな口をあけると、金切り声を上げて私のことを何度も叫び呼び続けた。

タイトル

家の中に何かいる

タグ
悲鳴
投稿者
S. A.
投稿日
2023-07-13
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