ある日、友人と山へ登りに行きました。
 皆と別れた後、ふとした興味から山の奥深くへ足を進めてみることにしました。
 気がつけば周囲は見知らぬ木々で、足元には草花が生い茂っていました。
 どこからともなく木霊するようなささやき声が聞こえてきました。
 それはまるで人間の声ではありませんでした。
 恐ろしさを感じつつも、声の源を探しました。
 そこにあったのは古びた祠。
 何の祠かはわからなかったのですが、前に誰かが供えた花が枯れかかっていました。
 ささやき声はその祠から聞こえてきたように思えました。
 そして、その声は急に止みました。
 それと同時に空気が変わり、周りが静まり返りました。
 すっと目の前に現れたのは、無数の蛍光体が舞う光景。
 動揺しながらも、その光の中に手を伸ばしました。
 すると、手元には前に見た供え花が、鮮やかに蘇っていました。
 その後、山から出ると元の世界に戻っていました。
 しかし、その出来事は誰にも話せず、供え花も人知れず持ち帰りました。
 家に着くと、ふと鏡を見ると、自分の髪が見事な銀色に変わっていました。
 それが山の奥深くに住むものとの約束だと、何故か直感で理解しました。
 一夜明けると、髪の色は元に戻りましたが、その出来事は語ることなく日々を過ごしました。
 しかし、供え花はいつまでも枯れることなく、美しく咲き続けました。

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山のものとの約束

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投稿者
S. A.
投稿日
2023-07-09
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