寂れた町の一角。昼下がりのこと、男は独り、人気のない路地を歩いていました。太陽が頂点に達し、道は一面明るく照らされています。
男は自分の長い影を見つめて歩いていました。しかし、ふと気づくと、自分の影が一つではなく二つあることに気づきました。その異変に気付いた男は、戸惑いながらも影をじっと見つめました。
その影は、男の動きを完璧に再現しています。男が右手を挙げれば、影も右手を挙げる。男が歩けば、影も歩きます。しかし、それは一つの影だけのことでした。もう一つの影は、微動だにしません。まったく動かずに、まるで男を見つめているようでした。
男がその影に手を触れようとした瞬間、その影は猛烈な速さで男に向かって飛び込んできました。男は恐怖で身動きできず、その場に立ち尽くします。
影は男の体をすり抜け、男の背後に立ち尽くしました。男が振り向くと、影は男の姿になっていました。しかし、その目は血走り、口元は歪んでおり、悪意に満ちた笑みを浮かべています。
その瞬間、男は声を上げて逃げ出しました。しかし、どこまで逃げても、その影は彼の後をついてきます。絶望的な恐怖感に包まれた男は、やがて力尽き、その場に倒れ込んでしまいました。
影は男の上に覆い被さり、ゆっくりと男の体の中に吸い込まれていきます。その後、男の姿はなく、ただ一つの影が男のように立っているだけでした。
その日以降、町の人々は男の姿を見かけなくなりました。そして、二つ目の影の噂が囁かれるようになりました。

タイトル

二つの影

タグ
投稿者
S. A.
投稿日
2023-07-08
戻る