ある日、私は深夜に帰宅しようとしました。街の灯りはぼんやりと照らし、雨が窓ガラスに激しく打ちつけていました。普段は気にならない音も、この時間には心地よく感じられました。
しかし、その日は違いました。道を歩いていると、路地の奥からぼんやりとした赤い光が見えました。視線を向けると、傘が地面に落ちていました。傘自体は特に特徴のない黒いもので、赤い光はどこから来ているのか、はっきりとは見えませんでした。
何の気なしに傘を拾いました。しかし、手に取ったその瞬間、耳に違和感がありました。周囲には人影がなく、雨音と自分の呼吸音だけが聞こえました。
一度家に戻り、自分の部屋でその傘を開きました。すると、傘の内側には何かが書かれていました。漢字とカタカナが混ざったメッセージで、「戻るな」と読み取れました。メッセージが書かれた部分の周りは濡れておらず、逆に乾いていました。
怖さから体が固まりましたが、その後何も起こらなかったので、何かの冗談だと思い込み、その日は眠りました。しかし、次の日、その傘はなくなっていました。どこを探しても見つからず、まるでその傘が一晩で消えたかのようでした。
数日後、私は再びその路地を通りかかりました。すると、同じ場所に同じ黒い傘が落ちていました。再び手に取ると、傘の内側には前回と同じメッセージが書かれていました。「戻るな」と。
その日から、傘は毎晩、同じ場所に現れるようになりました。そして毎回、私は傘を持ち帰り、部屋の中でそのメッセージを読みました。「戻るな」と。
ついにある日、傘を開いたとき、新たなメッセージが書かれていました。「後ろを見るな」と。しかし、そのメッセージを読んだ瞬間、私は後ろを見ました。そして、そこには自分の部屋がありましたが、その部屋の全てが逆さまで、壁や家具が天井からぶら下がっていました。
そして、その逆さまの部屋の中央に立っていたのは、私自身でした。その私がこちらに手を振っているのが見えました。しかし、その手の先には傘がなく、代わりに赤い光が輝いていました。
私はその場で絶叫しました。絶叫の声は逆さまの部屋に響き渡り、その声が返ってきたとき、私は気を失いました。
それから、私はその路地を通ることはありません。そして、傘を手に取ることもありません。ただ、毎晩、部屋の隅で赤い光がぼんやりと輝き、自分の息遣いと雨音だけが聞こえる夜に、私は一人で眠りにつきます。
- タイトル
赤い光
- タグ
- 傘
- 投稿者
- S. A.
- 投稿日
- 2023-07-13