髪の毛の間から
昔、独り暮らしをしていた頃の話です。ある晩、いつものように自宅でリラックスしていた時のことです。
季節は秋の虫の声が聞こえる頃です。部屋は穏やかな静寂に包まれていました。自分の頭に指を通して、髪の毛をそっと撫でていました。そこで、頭皮に何か異物を感じたのです。その感触は、髪の毛とは明らかに異なり、ぎこちない、固い何かでした。
顔から血の気が引くのを感じ、胸の中で鼓動が響きました。しかし、不安を押しのけ、ゆっくりとそれを把握しました。その感触は、指とそっくりで、動きはありませんでした。あの時、時間が止まったように思えました。
目を閉じ、一度深呼吸をしました。そして、ゆっくりと指を動かしてみると、その異物もまた動きました。それはまるで、自分の指の動きに反応するかのようでした。思わず悲鳴を上げ、手を引っ込めましたが、その異物は髪の毛の間から自分の視界に入ってきました。
そこには、手の形をした何かがありました。それは自分の手と似て非なる存在で、思わず息を呑みました。部屋中に広がる静寂が、一層その存在を際立たせました。
突然の事態に、理解する間もなく、慌てて浴室に駆け込み、頭を洗い始めました。髪の毛の間から顔を覗かせていたその手が、流れる水とともに消えていくのを確認しました。
その後、部屋に戻り、深呼吸を繰り返しながら心を落ち着けました。自分の部屋に立って、いつものように過ごそうと決意したのです。しかし、その晩は何度も目が覚め、髪の毛の間から手が出てくる光景が頭から離れませんでした。