月夜の滑り台
夜遅く、友人との飲み会から帰ってきた。通り道にある公園のベンチで一息つくことにした。
その公園には、巨大な滑り台があった。昼間は子供たちが騒ぎ立てる場所だが、深夜のこの時間は静寂が広がっていた。しかし、なぜだかその滑り台だけが月明かりで浮かび上がっていた。
ベンチに腰掛け、ため息をつきながら滑り台を見つめていたら、なにかが見えた。滑り台の上から、ゆっくりと、何かが滑り落ちてきた。
滑り台の下に到達すると、それは形を変え、人間の形になった。見ていると、それは一人で滑り台を何度も上り下りを繰り返していた。
だが、その姿は違和感を覚えるものだった。頭が逆さまになり、体はゆがんでいて、滑り降りるたびに異様な音を立てていた。
その光景を見ていると、次第にその存在がこちらを見ていることに気付いた。逆さまの顔がじっとこちらを見つめていた。
心臓が高鳴り、その場から逃げ出したい衝動に駆られた。だが、何故か身体は動かない。それはまるで、その存在に引き寄せられているかのようだった。
そして、それは滑り台から降りてきて、ゆっくりとこちらに近づいてきた。逆さまの顔が歪んで笑い、その口からは異様な音が聞こえてきた。
それがこちらに手を伸ばした瞬間、自分の身体が動き出した。その場から必死に逃げ出し、二度と公園には戻らなかった。